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October 07, 2004

見えてきたネット業界の未来図(iNTERNET magazine 2004年10月)

 インターネットビジネスの世界に、ようやく第二の波がやってこようとしている。ライブドアと楽天という良くも悪くもネットビジネス業界を代表する両企業が、プロ野球という古い権威の世界に切り込もうとしている――その動きは、ネットビジネスが新たなパラダイムを迎えたことの象徴ともいえるだろう。
 1990年代半ばに産声を上げ、90年代末に華々しく盛り上がったかに見えたドットコム業界は、しかし世紀が変わって以降、ネットバブルの崩壊とIT不況の急速に荒波に飲み込まれた。
 風向きが大きく変わり始めたのは、2003年に入ったころからである。ヤフーや楽天、ライブドア、GMOといった“勝ち組“ネット起業の収益が急激に改善されるようになり、これら企業の存在感が重みを増していった。そして同時に、ベンチャー企業同士の買収・合併など業界再編の動きが加速していったのである
 その動きを作り出した背景には、3つの大きな力があった。
 ひとつは、ブロードバンドの普及である。
 ネットバブルが最高潮に達した1999年末、ブロードバンドと呼べるようなものは日本にはほとんど存在していなかった。わずかに東京めたりっく(後にソフトバンクが買収)が一部地域でサービスインしていた程度で、ヤフーBBやフレッツADSLなどが登場するのは2000年後半になってからのことである。当時は大半の人が、アナログ電話回線を使ってモデムでネットに接続していたのである。いま考えれば、そんな状況でネットビジネスが花開くはずがない。ブロードバンドの引き金が引かれたのは、翌2000年夏になってからだ。政府のIT戦略会議がe-Japan構想を策定してブロードバンド普及に本腰を入れ始め、そしてYahoo!BBによるADSLの価格破壊が起爆剤となったのである。その後ブロードバンドは急速に普及し、2003年5月には1000万世帯を突破した。これがネットビジネスを成り立たせる大きな土台となったのである。
 第2には、日本のインターネットビジネスが時価総額極大化経営とニューエコノミーという2つの呪縛から脱却したことだ。それはいわば、「虚」から「実」への転回でもある。
 90年代、孫正義ソフトバンク会長が提唱した時価総額極大化経営――大風呂敷を広げて株式の時価総額を高め、それによって公募増資や社債発行などで資金調達を容易にする――という経営手法は、ネット業界で一世を風靡した。いま振り返れば、実業をおろそかにして株価の値上がりだけを狙うという経営は虚業以外のなにものでもない。だがドットコム銘柄の高騰に目がくらんだ当時の投資家、ベンチャー経営者たちはそのことに気づいていなかった。ニューエコノミー理論も同様だ。「最初に最大のシェアを奪った企業だけが生き残ることができる」という幻想が蔓延した結果、起業家たちは無料でサービスをばらまき、収益を上げられないまま自滅していったのである。
 現在、勝ち組と目されている企業群も、自社株の価値を高めるためのさまざまな方策を採っている。だがその目的は、昔のネットバブル時代とは大きく異なっている。彼らの最大の狙いは、株式交換によってM&A(企業の合併・買収)を行いやすい条件を作るためである。
 彼らの最終的な目的は、ネット企業のメディア化を進め、ネット財閥を作り上げることである。そして「メディア化」という明確な目標に気づいたことが、ネット業界再編の第3の力となっていると言えるだろう。
 インターネットビジネスが進化すれば、メディアと流通・サービスは融合していく。その進化が突き進めば、いずれはメディアを核としたネットビジネスの再編が起きる。つまりポータルサイトを中核として、さまざまな流通ビジネスやサービス提供ビジネスが統合されていくのである。そしてこのモデルを高度化するためには、ポータルサイドのページビューを極大化させるしかない――。
 ヤフーと楽天がページビューを巡って熾烈な争いを繰り広げ、それをライブドアが急追しているという現在の構図を見れば、勝ち組企業の「メディア戦争」がいかに激しく繰り広げられているかがわかるというものだ。ポータルビジネス企業だけではない。たとえば独立系ネット広告の雄であるサイバーエージェントは、「自社媒体への広告出稿」という新たなモデルを提示し、メディア戦争に参戦しようとしている。
 ようやく幼年期を終え、離陸を果たしつつあるインターネット業界。セカンドステージは、メディアをめぐる激しい戦いとなるだろう。

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