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October 06, 2004

堀江貴文――変革に挑む男のルサンチマン(サンデー毎日 2004年10月)

 ライブドアが東証マザーズに上場して間もないころ、機関投資家向けに同社が株主説明会を開いたことがあった。今から4年前、社名がまだオン・ザ・エッヂだったころのことである。
 会議室には、銀行や生命保険会社などの幹部社員がパリッとしたスーツに身を固めてずらりと並び、堀江貴文社長の登場を待っている。だが堀江社長は開始時刻に姿を見せず、30分以上も遅刻してきた。しかもようやく現れると同時に、あろうことか居並ぶ投資家たちを無視し、大判の茶封筒に説明資料を詰め込み始めたのである。格好はおなじみのTシャツにジーンズ姿だ。
 投資家たちはあっけにとられた。さすがに腹に据えかねたのだろう。中のひとりが、きつい調子で言った。
 「堀江さん、30分も遅刻してきてひとことのあいさつもないんですか?」
 すると堀江社長は顔を上げ、「えっ?」とビックリしたような顔を見せたという。
 出席した銀行関係者のひとりは、
 「結局最後まで、堀江社長は遅刻のお詫びをひとことも言わなかった。信じられない態度だった」
 といまだに憤然としているのである。「結局、こんな失礼な男に投資した自分たちがバカだった、って銀行マン同士で慰め合ったんですけどね」とその関係者は話す。
 堀江社長の頭の中には、社交辞令というものが存在していないようなのである。
 実際に堀江社長に会ってみて、不快感を示す人は多い。何より態度が悪いのである。相手が自分よりも頭が悪いと知ると、とたんに白けきった表情になる。知識が少ないとさんざんにバカにする。いつも単刀直入な短い回答しか返さず、丁寧な解説を好まない。インタビュアー泣かせである。
 それは彼のビジネスの手法でも同様だ。儲かっているものはとことん追求するが、儲からないものにはいっさい手を出さない。優秀な社員はどんどん遇するが、使えないと思うと切り捨てる。「どうしてそこまでドライになれるんですか?」と聞くと、こんな答が返ってきた。
「だってバカですよ?」
 そうして「そんな当たり前のことをどうして聞くのか?」とビックリしたような表情を見せたのである。
 その不思議なキャラクターを、どう説明すればいいのだろうか。もっとも近い言葉を探してみれば、それは「身も蓋のない」とでも言えるかもしれない。
 その「身も蓋もなさ」は、ライブドアという会社の本質であるようにも見える。
 ライブドアは堀江社長が東大文学部在学中の1996年に設立した。当初はホームページ制作が中心の地味な企業だったが、2000年に東証マザーズに上場するころからめきめきと頭角を現し、インターネット業界の一角を担うに至った。当初30人足らずだった社員は、現在はグループ合わせて1200人。年間売上高は上場時の2億6000万円から、250億円にまで達している(今年度通期見通し)。
 なぜライブドアはこれほどまでに成長できたのだろうか。同社が他のネット企業と一線を画している部分があるとすれば、まず第一にはその徹底的な合理化経営だった。堀江社長自身は「キャッシュフロー経営」と説明している。つまり徹底的に経費(キャッシュアウト)を減らす一方で、営業に力を入れて売り上げ(キャッシュイン)を増やす。常にキャッシュが手元にある状態を維持し、「勘定合って銭足らず」と言われるような状況に陥って黒字倒産することを防ぐ。そのようにして会社を維持していけば、決して倒産することはないし、日銭を稼いで現預金を増やしていくことができる。
 実際、堀江社長はその原則を忠実に実行した。社内では接待費はいっさい認められておらず、社員の使うパソコンも自腹である。100円の文房具を買うのにも相見積もりを求められる。給料は能力に応じて、徹底的に差が付けられる。二十歳代でも最大1200万円の年収差があるという。三十代で一億円以上のストックオプションを得てフェラーリを乗り回している者がいる一方で、無能の烙印を押されて会社から去っていく者も少なくない。
 その一方で、営業にはとことん力を入れてきた。この考え方は設立当初から変わらず、「会社を作った直後は、もし技術的に難しいような仕事を頼まれても、断らずにすべて引き受けた。もし社内でどうしてもできなければ、社外に頼んでしまえばいい。とにかく仕事を増やすことが先決だった」と堀江社長本人も言っている。かなり身も蓋もないやり方だが、見ようによっては相当に地道な戦略ともいえる。
 だがインターネットバブルが盛り上がって莫大なカネがネット業界に流れ込んできた1990年代末、他社が青山や赤坂の一等地にオフィスを構え、豪華な家具をそろえてカネを浪費していた時も、ライブドアは無駄遣いを排除し続けた。そうして株式上場や公募増資などで集めた多額の資金を温存し、そしてネットバブル崩壊後の荒波の中で、資金繰りに行き詰まった他ベンチャーを温存したキャッシュを使って次々と買収し、巨大化していったのである。
 ライブドアが目指しているのは、さまざまなネット事業を集大成した「インターネット総合企業」とでも呼ぶべき企業体だ。それは楽天やヤフーも同様で、楽天の三木谷浩史社長はそうした企業体を「ネット財閥」と呼んでいる。
 もっとも現状では、幾多の企業を買収してサービスをそろえても、「一流どころのサービスをそろえているヤフーや楽天と比べれば、ライブドアは二束三文のガラクタを並べているだけ」(証券会社アナリスト)という相当に辛辣な意見も少なくないのだが――。
 それにしても、東大在学中は半ば引きこもりのようだったオタク青年が、これほどまでにエネルギーを噴出させ、身も蓋もなく金儲けに走っている背景には、何があるのだろうか。
 堀江社長の口癖は、「僕らは小僧の会社だと思われて、世間から馬鹿にされている」というものだ。近鉄買収提案から球団申請へと進み、これだけ有名になった今も、彼の世間への反感はあまり変わっていない。
 他のネット企業を呑み込み、巨大化を目指すライブドア。そのエネルギーの奥底には、堀江社長のそうした社会への反感――あるいは恨みのようなものが暗く潜んでいるようにも見えるのである。

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お邪魔してすみません。良いウェブサイトをおすすめします。<(_ _)>

Posted by: 漢土漢方 | January 10, 2020 03:09 PM

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