国土地理院の地理情報システム(e.Gov 2004年8月)
「情報提供は改革の柱であり、行政運営の基本です。横浜市はIRのためだけにさまざまな数字を作成し、この場で初めて示しているのではありません。IRの本当の姿は、さまざまな指標を事前に公開したうえで、それに対してトップが真摯に説明する場だと考えています」
グラフなどを使って語りかける中田宏・横浜市長に、集まった投資家たちも熱心に耳を傾けた。横浜市は今年3月、単独では初めてとなる投資家向け広報説明会(IR)を実施した。そのときのひとこまである。
横浜市は1999年から、市場公募債を発行している東京都や神奈川県などが共同で開催しているIRに参加してきた。だが2004年度から個別条件決定方式を選択し、独自に市場公募債を発行していくことになった。このため、IRも単独で開催する必要に迫られたのである。またIRを積極的に活用していきたいという中田宏市長の意向もあった。中田市長は、「市債の発行部数を増やすとともに、IRを通じてよりいっそうの市政の情報公開を進めたい」と考えていたのである。トップ自らが横浜市の置かれている状況と今後の戦略を熱く語り、質疑に真摯に答えることで、IRはトップの取り組みの姿勢を示す良い機会でもあった。
横浜市の財政局財政部総務課財源担当課長(広告事業推進担当)である海道亮輔氏は打ち明ける。
「これまでに経験のないことばかりで、たいへんな作業だった。それに加えて、従来の自治体のIRはあまり評判が良くなかったため、もっときちんと評価されるIRを実施したいという気持ちもあった」
そして2003年度がスタートした年度当初、財務局は運営方針に「投資家説明会の実施」を盛り込んだ。ノルマとして自らに課すことで、IRをやり遂げようという部局挙げての意志を示したのである。そして同時にコンセプトとして「横浜発オンリーワンのIR」を掲げ、IRの取り仕切りをアウトソーシングするのではなく、担当者が手作りで実施するIRを目指した。
しかし実際に取りかかってみると、準備はたいへんだった。まず新聞の切り抜きから始め、機会を見つけては民間企業の投資家説明会に積極的に通った。他の自治体のIRにも参加した。また具体的に、会場で何をどう説明すればよいのかもリストアップしなければならない。関係者にアンケート調査を行い、具体策を探った。その結果わかったのは、過去の財務資料を羅列しているだけでは、IRに出席する投資家を満足させることはできないということだった。横浜市ではこれまで、IRの際には過去の財務状況を集めた資料しか配付していなかった。これを改め、市の政策や財政、運営の方向性、そして今後の進むべき道筋を明らかにした資料にしなければならない。
海道氏は、「投資家など関係者に対するアンケート結果には、横浜市が今後どのベクトルを向き、そしてトップがどう舵取りをしているかに力点を置くべきだという意見が少なからずあった。しかも『あれもやりたい、これもやりたい』といった遠い先の夢物語ではなく、数年先までを見渡してどう手堅く舵取りをしていくのかという判断が求められていることがわかった」と話す。
市長が市の財政をどう分析し、どのように社会情勢の予測し、そしてどう方向性を見定めていくのかがわかる資料を作らなければならないというのである。
財務局は「横浜市債に関する実務者研究会」委員や、市債の引受シンジケート団メンバーの銀行、証券会社などから具体的なアドバイスをもらって作業を進めた。職員が連日、検討と試行錯誤を繰り返しながら、全体から細部までの構成を練り上げたのである。
時期や開催場所、時間などをどう決めるのかということも、入念に考え抜かれた。投資家の新年度投資計画策定が行われる時期と、市の新年度予算案を盛り込むことんできる時期のかねあいを考え、実施時期は3月上旬と決定。また投資家の利便性を考え、市場の取引が終り、しかし説明会の後に帰社できる時間を考え、午後4時に設定した。場所も利便性を第一に考え、横浜市ではなく、東京・麹町の会場を借りた。
3月9日、会場には機関投資家や金融機関、アナリスト、他の自治体関係者など約160人が集まった。
進行は、まず市長が「横浜新時代~民の力が存分に発揮される都市の経営を目指して」と題して登壇。時代認識や基本理念についで、政策(中期政策プラン)と財政(中期財政ビジョン)、運営(新時代行政プラン・アクションプラン)の3つを有機的に連動させた「横浜リバイバルプラン」などについて熱っぽく語った。ついで財政部長が、市財政の現状と見通しについて説明した。
質疑応答では、投資家からかなり厳しい質問が相次いだ。
投資家 市長は地方債のリスクについて、どう定義されているのか?
市長 デフォルトの心配なら今はどこでも同じと強弁できるが、これから先は不透明な部分もある。そうでない時代に向けて、そうでない仕組みを作っていくことを前提に、われわれは準備をしている。
投資家 今回のIRは、横浜市がより有利な条件で資金調達をしようとする意図を持って行っているのか。
市長 その通り。横浜市から見ればそうであり、投資家の皆様からすれば、リスクの低い商品としてより多くの支持をいただけると考えている。
横浜市の初めてのIRは、おおむね投資家に好評だった。「感動しました」「なかなか中田さんは凄いですね」などという声が、開催後に財政局に寄せられた。またIRを報道した新聞記事でも、「中田市長の歯切れのいい発言が注目を集めた」「これだけ市政の将来性について首長の熱意が感じられた説明会はかってなかった」と高い評価が目立ったのである。
IRの模様は、横浜市の公式ウエブサイト上でもストリーミング映像として公開された。海道氏は、「中田市長がビジュアルな資料を基に、これまでの4年間を振り返りながら今後どう舵を取っていくのかというのをわかりやすく説明した初めてのケースだったかもしれない。有権者に見ていただいても、非常に意味があると思い、ウエブサイトで公開することにした」と話す。
同市財政局では今後、市本体だけではなく外郭団体なども含めた情報公開を進めるとともに、投資家戸別訪問型IRや市民に対しても直接語りかけることのできるIRなど、多様なニーズに応えたIRを推進していく方針だ。
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