オーバーチュア新社長上野正博氏に聞く(iNTERNET magazine 2004年7月)
キーワード広告の雄、米オーバーチュアが米ヤフーに買収されたのは今年2月。ノルウエーの検索エンジンであるファストや古株の検索エンジン企業インクトゥミなどを次々と買収してきたヤフーは、圧倒的な資金力を武器に対グーグル包囲網を固めつつあるように見える。オーバーチュアがヤフーの世界戦略の一環に組み込まれつつある――というグローバルな構図は明らかだ。
そしてこうした動きに呼応するかのようにヤフー日本法人はこの6月、グーグルとの提携を解消し、デフォルト検索エンジンを自社の独自技術「Yahoo Search Technology」へと移行させるとともに、キーワード広告でもグーグルを排除してオーバーチュアに一本化した。この怒濤の流れの中で、オーバーチュア日本法人も今後、ヤフー戦略の中へと巻き込まれていくのだろうか? 創設者の鈴木茂人社長に代わり、この七月に着任したばかりのオーバーチュア日本法人新社長、上野正博氏に聞いた。
――上野社長は以前からトランスコスモスでウエブマーケティング部隊を率いるなどして、検索エンジンマーケティング(SEM)の世界に深く関わってきたそうですが、オーバーチュアのビジネスモデルについては、どのように認識していましたか?
上野社長 企業サイトへのトラフィックを誘導してくる手法として、きわめて有効なマーケティングツールであると考えていました。オーバーチュアに対しては当初から、そうした堅固なビジネスモデルを持っている会社という認識です。インターネット広告の世界ではこれまで、さまざまなツールが使われてきました。その歴史の中でも、キーワード広告はその中でも最も効果が高く、そしてわかりやすいモデルを提示していると思います。
――キーワード広告では、強敵のGoogle AdWordsとどう戦っていくのかが常に目前にある大問題だと思いますが、その戦略は。
上野社長 グーグルとオーバーチュアは、決して同じサービスを提供しているわけではありません。グーグルがそのすぐれたテクノロジをいかに機能的に使いこなしてもらうかということに注力しているのに対し、オーバーチュアは人手をきちんとかけ、サービスの向上をはかっていくということを企業理念として掲げています。このていねいなビジネス手法を崩さないでやっていくのが、もっとも大きな戦略だと思います。
――この6月にヤフー日本法人のキーワード広告がオーバーチュアに一本化されましたが、どの程度の好影響がでているのでしょうか。
上野社長 問い合わせや申し込みの数は増えましたし、何よりも広告クライアントの方たちから「わかりやすくなったね」と言われるようになりました。これまではヤフーで検索すると、検索結果にグーグルとオーバーチュアの両方が表示され、ナショナルクライアントの方などからは「どちらに申し込めばいいのか?」と戸惑いの声が少なくなかったようです。しかし100%オーバーチュアに切り替わったことで、ヤフーの検索結果に広告を掲載するのであれば、オーバーチュアを購入すればいいと明快に説明できるようになったのです。
――売り上げもかなり増えたのでは?
上野社長 6月はAsahi.comなど新たにオーバーチュアを導入していただいたポータルもありましたし、またこの時期はボーナス商戦でページビューが全般的に増える時期なので、さまざまな要因が背景にあったとは思いますが、売り上げがかなり急上昇したのは事実です。
――ヤフーには感謝するしかないですね。
上野社長 そうですね、ありがたみとプレッシャーを両方感じています。
――それぞれの米国法人が買収によって親子関係になってしまっているわけですが、ではヤフー日本法人とオーバーチュア日本法人の関係はどうなっているのでしょうか。「いとこ」などという説明もあるようですが……。
上野社長 ご存じのように、オーバーチュア日本法人は米オーバーチュアの100%子会社ですが、ヤフー日本法人は米ヤフーの100%子会社ではありません。だからオーバーチュア日本法人がヤフー日本法人の子会社になるということではなく、やはり「いとこ」とか「親戚関係」と説明するのがもっともわかりやすいと思います。
――ヤフーがキーワード広告をオーバーチュアに一本化し、関係はかなり強まっているのでは。
上野社長 ヤフー日本法人からはトラフィックを100%お任せいただいてますから、最大のパートナーであるのは事実です。ただ、それはあくまでビジネスパートナーという位置づけです。
――米国の検索エンジン市場を見ると、ヤフーとグーグル、MSNの三強による三つ巴の戦いという構図ができあがりつつあります。オーバーチュア日本法人も、この構図に巻き込まれていくのではないでしょうか。
上野社長 3社が米国で市場シェアをどう奪い合っていくのかはわが社には関心のあることがらではありますが、しかし事業収益に直結するものではありません。それにグローバルな視点で見れば、欧州などでは業界構造はかなり異なっています。ただオーバーチュアとしては、ヤフーと強力な関係を保っていて、そしてヤフーに力があるというのは非常に嬉しいことですし、同様にヤフーに次ぐ大きなパワーのあるMSNともきっちりとした関係構築を行っているというのは、事業運営上非常に大きな意味のあることです。
――全方位外交ということでしょうか。
上野社長 オーバーチュアは、ヤフーだけを見て事業運営しているわけではありません。国によってヤフーの持っているマーケットシェアは異なっており、オーバーチュアはそれぞれの国で必要に応じて強力なパートナー作りをしていくということです。
――パートナーの条件は?
上野社長 このキーワード広告というビジネスの場合は、検索クエリー数がどれだけあるかで事業規模が決まってくるということがあります。つまりは検索クエリー数が多く、そしてそのトラフィックの品質が良いパートナーが、オーバーチュアにとっての良いパートナーであると言えると思います。
――日本国内のキーワード広告市場は、まだ伸びるでしょうか。
上野社長 以前はバナー広告を使っていただけなかったような業種のクライアントも、最近はキーワード広告に参加していただいています。まだまだその裾野は広がっていくでしょうね。
――ナショナルクライアントのネット広告市場への参入も目立つようになってきています。
上野社長 キーワード広告に関して言えば、ナショナルクライアントが十分に活用していただいているかと言えば、まだそこまでには至っていません。ただ日本の一般家庭にブロードバンドが普及し、何かを調べたい時に検索エンジンを使うというライフスタイルはかなり一般的になってきています。その変化の中で、ナショナルクライアントの意識もようやく変わってきているようです。現在は、ちょうどその入り口にあるという段階でしょうか。
――ナショナルクライアントが本格参入してこれば、ドラスティックに業界も変わるでしょうね。
上野社長 市場規模はかなり拡大すると思います。アメリカでは広告市場の3分の1をネット広告が占めるといわれていますが、日本でも同程度ぐらいにまでは拡大していくと思います。
――オーバーチュア日本法人は他国のオーバーチュアと異なり、代理店システムを大胆に取り入れた営業戦略を採っていますが、この戦略に変化はないのでしょうか。
上野社長 その路線にはまったく変更はありません。今まで以上に、代理店との関係を強化していきたいと思っています。
――地方の小規模店舗などに対する営業戦略は。
上野社長 潜在的な市場は数多くあると思います。地方でもこれまでに何度か、オーバーチュアや代理店が主催し、その場でキーワード広告に申し込めるセミナーなどを開いており、今後も展開していきたいと考えています。
――キーワード広告というビジネスモデル自体の将来性はいかがでしょうか。
上野社長 私はすでに6~7年、インターネットのマーケティングビジネスに携わっていますが、これほど多業種にわたって費用対効果の高さも含め、使い続けたいと感じた広告商品はキーワード広告が初めてでした。今までのバナー広告やオプトイン広告ももちろん有益な商品だったのですが、キーワード広告ほどさまざまな広告主に当てはまるターゲットの広さはなかったと思います。
――今後、新規株式公開(IPO)の予定は。
上野社長 今のところまったくないですね。親会社である米オーバーチュアや米ヤフーからも、そういう話は来ておりません。
上野正博
40歳。大阪府生まれ。慶応大学商学部卒業後にリクルートに入社し、1998年、ダブルクリック代表取締役社長。2001年にトランスコスモス取締役、2003年ダブルクリック会長を経て同年トランスコスモス常務取締役に就任。2004年7月、オーバーチュア社長に転じる。
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