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May 07, 2004

Winny開発者ついに逮捕(iNTERNET magazine 2004年5月)

 ファイル交換ソフト「Winny」の開発者だった東京大大学院の金子勇助手(33歳)があ5月10日、著作権法違反(公衆送信権侵害)の幇助容疑で京都府警ハイテク犯罪対策室に逮捕された。直接の逮捕容疑は「2002年5月ごろ、従来のファイル交換ソフトよりも匿名性を高めようとWinnyを開発し、自分のホームページで無料公開し、昨年9月、群馬県高崎市の男性らがWinnyを使い、アメリカ映画などをネット上で公開するのを手助けした疑い」というものだ。
 昨年9月の事件というのは、群馬県高崎市の自営業の男性(当時41歳)と、愛媛県松山市の無職の少年(当時19歳)の2人が、アメリカ映画「ビューティフルマインド」やゲーム「スーパーマリオアドバンス」などをWinnyネットワークにアップロードした容疑で京都府警に逮捕された事件を指す。金子助手はこの2人の犯罪の幇助を行ったというのである。
 しかし高崎市の自営業者ら直接の実行者はともかく、ソフト開発者が逮捕されるというのは前代未聞の事態である。このためコンピューター業界の有識者や弁護士、法学者などはこぞって「逮捕は行き過ぎではないか」と批判し、インターネットベースの支援グループもすぐに立ち上がった。金子助手の友人である支援者のひとりは「親しい友人、昔の知人から見知らぬ人まで、驚くほど多くの反響がありました。みな京都府警の暴走とみて、危機感を抱いているようです。とくに技術者の間での危機感はとても強い」と話す。
 一方、桂充弘弁護士を団長とする総勢10人の弁護団も結成された。弁護団は5月14日に京都市内で記者会見し、声明文を発表した。少し長くなるが、次のような内容である。
 「金子勇の逮捕および拘留について、弁護団は京都府警の強引なやり方に憤りを禁じ得ないものであります。(中略)WinnyはP2P型ファイル交換ソフトであり、特定のサーバに負担をかけることなく効率よくファイルを共有化するために開発されており、今後のネットワーク化社会にとって非常に有用なシステムであります。またファイル交換システムは広く用いられており、これらのソフトが違法視されたことはありません。アメリカでは適法とされた裁判例もあります。金子勇はWinnyを技術的検証として作成したに過ぎず、このソフトを悪用したものを幇助したとして罪に問われることは、明らかに警察権力の不当公使であります今回の逮捕・勾留がクリエーターの研究活動に与える萎縮的効果は計り知れず、今後の日本におけるソフトウェアー開発環境を揺るがせるものですらあります」
 この声明文が作られたのは起訴前の時点のもので(本当に起訴されるかどうかもまだはっきりしていないが)、検察庁からの証拠開示はいっさい行われておらず、弁護団が裁判方針を立てる段階には至っていないだろう。だが少なくとも、声明文からは、弁護団が「Winnyの作成目的はあくまで技術的検証であり、違法物の交換を幇助する目的で作ったのではない」という論点で争おうと現時点で考えていることがうかがわれる。警察が「匿名性を高めようとWinnyを開発し、犯罪を幇助した」と断じているのとは、真っ向から対決しているのである。果たして幇助目的で開発したのか、それとも技術的検証のためだったのか――この部分が裁判の争点となる可能性は高いだろう。
 少し過去の経緯を振り返ってみよう。Winny開発がスタートしたのは、京都府警の逮捕事実にもあるとおり、2002年5月のことである。
 P2Pのファイル交換ソフトは1999年、Napsterの登場によってブレイクした。だが全米レコード協会などからの激しい攻撃で、Napsterは2001年7月にサービスを停止してしまう。その後、NapsterベースでOpenNapサーバを使ったさまざまなファイル交換ソフトが乱立したが、その中でもっとも人気の高かったのがWinMXだった。WPNP (WinMX Peer Networking Protocol)という独自のプロトコルを搭載し、日本語化の改変を行わなくとも、そのまま日本語が通ったことも大きかった。結果、日本国内のアングラシーンで爆発的に流行し、ポストNapstarのデファクトスタンダードの地位を得るにいたるのである。
 だが2001年11月、WinMXでビジネスアプリケーションを交換していた学生2人が、京都府警に逮捕される。この直後から2ちゃんねる上などで、匿名性を高めた新たなP2Pソフトを求める声が高まった。そんな中で翌年4月、こんな書き込みが2ちゃんねるのダウンロード板に書き込まれたのである。
 「暇なんでfreenetみたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindowsネイティブな。少しまちなー」
 この書き込み番号から「47」氏と呼ばれるようになったのが、金子助手だった。そしてこの書き込み通り、Winnyは約1カ月後の5月6日に最初のベータ版がリリースされ、ジオシティーズにサポートサイトが開設されたのである。
 開発途中、ダウンロード板で金子助手はさまざまな書き込みを行っている。
 「著作権含むけど、それと知らない人が単にデータを中継しただけでも捕まるってのなら逮捕可能かもしれないけど、それってルーター使ってたら逮捕と同じなわけで、システム使ってるだけで無条件で逮捕可能にしないと、捕まえられんだろう」
 「個人的な意見ですけど、P2P技術が出てきたことで著作権などの従来の概念が既に崩れはじめている時代に突入しているのだと思います。お上の圧力で規制するというのも一つの手ですが、技術的に可能であれば、誰かがこの壁に穴あけてしまって後ろに戻れなくなるはず。最終的には崩れるだけで、将来的には今とは別の著作権の概念が必要になると思います。どうせ戻れないのなら押してしまってもいいかっなって所もありますね。」
「あと作者の法的責任に関しては、情報公開を要請されるとか公開停止程度の勧告はありえますが、逮捕というのはまずありえないだろうと考えています」
 一方、新聞報道などによれば、金子助手は逮捕後、「結果的に自分の行為が法律にぶつかってしまうので逮捕されても仕方ない」と供述したという。
 今後、金子助手と弁護団はどのような主張を展開していくのか。仮に起訴され、刑事裁判ともなれば、非常に注目される事態となるのは間違いない。

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