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March 07, 2004

事件簿「本当に悪いのは誰? グーグル八分の顛末」(iNTERNET magazine 2004年3月)

 W社は、訪問販売によってウエディングドレスや宝飾品を販売している企業である。1992年に創業され、社員数は約200人。年商は90億円近くに上る。
 この企業への批判が突如として巻き起こったのは2002年6月。「匿名掲示板(仮)」(以下、掲示板仮)という名称の掲示板上で、匿名の書き込みが行われたのがきっかけだった。掲示板仮は2ちゃんねる同様、マルチスレッド・フロート型の掲示板である。
 最初の書き込みはこうだ。
 「(W社から)この前電話かかってきました。ずーっと電話での話しが続いて耐え切れなくなり『何時に○○に来て下さい』って言われて『行く』といってしまったけど、これってやっぱり行かないとヤバイことになるかな……」
 この書き込みに対して最初は反応は少なかったものの、同年暮れになってから「悪徳商法ではないか」「かなり怪しい勧誘をしている」といった書き込みが盛んに行われるようになる。さまざまな証言や告発もあれば、煽りと見られるような根拠のない書き込みも少なくなかった。一方で、こうした批判を封じ込めるためとも見られる「荒らし」行為も行われた。そして数多くのスレッドが立ち上がり、大きな盛り上がりを見せるようになったのである。
 この動きに対し、W社の側も敏感に反応した。同社の会長室長が語る。
 「スレッドが激しい盛り上がりを見せ始めた2003年1月ごろから、社員の中にも掲示板仮を見て動揺する者が現れはじめた。顧客からの問い合わせやキャンセルも増え出した」
 同社は2003年8月、掲示板仮のサーバを管理しているホスティング業者A社に対し、「掲示板仮の連絡先を教えてほしい」と要請する。A社は通信の秘密を理由にこれを断った。このためW社は今度はA社を通じ、掲示板仮に対して書き込みの削除を求めたのである。W社代理人の弁護氏名で書かれた通知書は、こう書かれている。
 「(前略)当社が悪徳商法を行っているかのごとき事実を記載し、虚偽の風説を流布して当社の信用を毀損するとともに、当社の名誉を毀損する情報を掲載している」
 この通知書に対し、掲示板仮の管理人は、「悪徳商法?マニアック」(以下、悪マニ)の掲示板に、「W社より削除依頼が来ました」と書き込んだ。悪マニは悪徳商法に関する情報の集積地であり、悪徳商法対策の中心的存在として知られるサイトである。管理人はbeyond氏といい、ボランティアベースでこの有名なサイトを運営している。
 W社はついで掲示板仮の管理人にも直接、メールで削除依頼を送付している。管理人は依頼を断ったうえで、「議論の中で真実を明らかにしたい。そのための情報として、①クレジット契約書②売買契約書③アンケート用紙を提供してほしい」と返信した。
 だがW社にとっては、こうした要請は受け入れがたかったようだ。会長室長が続ける。
 「匿名者が発言を行っているような場所に、社内の資料を出すことはできないと思った。裁判など、公平で権威のある場所での調停ならともかく、第三者が匿名で、しかも誹謗中傷が行われているような場所で『わが社が悪徳かどうか』を判断するというのが、正しいとは思えなかった」
 このころから、議論の場は掲示板仮から悪マニ上へと徐々に移っていくことになる。悪マニ管理人のbeyond氏は話す。
 「本人に直接連絡せず、最初はホスティングプロバイダなどまわりから攻めていくというのは、ある意味卑怯なやり方だと思った。そもそも90億円近くも売り上げがある企業が、公開の議論を嫌がるというのがまずおかしいのではないか」
 悪マニでの盛り上がりが沸騰しつつあった2003年11月、先の会長室長は実名でbeyond氏にあてて、次のようなメールを送っている。
「私はお客様相談の責任者として、弊社の仕事のありかたについて検証する立場にあることなどから、貴サイトは消費者保護の立場に立つきわめて公正なホームページとして、高い評価があることは存じております」
 こう書いたうえで、悪マニ掲示板の一部書き込みの削除を求めたのである。これに対してbeyond氏は、次のように返信し、W社からのメールの内容を掲示板で公開した。
 「削除要請に関する疑問・質問などは、会議室にてお願いいたします。(中略)議論を通じて真実を明らかにしていく所存ですので、上記条件を守っていただければ、裁判によらない任意の話し合いに応じます。ただし、いきなり『削除なき場合、法的措置を行います』などの『脅し文句』がある場合は、この限りではありません」
 W社側は、再びメールを送付した。
 「これが貴殿の公式見解とされるなら、弊社は顧問弁護士と相談のうえ、しかるべき対応をすることといたしました。法的措置を『脅し文句』とする意味は理解しかねますが、今後の貴殿の運営サイトでの、弊社に対する誹謗中傷の状況により、威力業務妨害などの刑事告訴や損害賠償請求は当然、視野に入れて対応したいと考えます」
 これが2003年11月末のことである。
 会長室長は一連の経緯について、次のように話す。「何をお願いしても、すべて掲示板で公開されてしまう。しかも私のメールの一部だけを抜き出し、『圧力をかけてきた』と非難する。どう対応していいのか途方に暮れた」
 これに対して、beyond氏は「匿名の人を相手に商売し、そしてインターネットの世界でも仕事をしているのだから、それを相手にできないというのは矛盾しているのではないか。掲示板で話し合うというのがインターネットのルールではないだろうか」と指摘する。
 この前後からW社側は相次いで法的な措置を取るようになり、先立つ9月にはA社を相手取って掲示板仮の氏名開示請求を東京地裁に起こし、そしてこの請求には11月、東京地裁が「開示すべき」という見解を出す。氏名はA社から開示され、翌2004年1月にW社は掲示板仮の管理人を名誉毀損で京都府警に刑事告訴し、受理されるのである。さらに2月には、この管理人に対して6000万円の損害賠償請求も起こしている。京都府警は捜査に着手しており、本稿の締め切り直前である3月10日、掲示板仮の管理人宅に対する家宅捜索を行っている。
 話を戻そう。
 問題のGoogleへの要請は、W社が相次いで法的措置を取り始めた時期に行われた。2003年12月下旬に、W社はGoogleのウエブサイトからメールフォームを使い、「悪マニのW社に関するトピックスを、Googleの検索結果から削除してほしい」と依頼したのである。
 この時期、Googleで「株式会社W」と検索すると、トップページの大半は悪マニをはじめとする掲示板が占め、W社ウエブサイトのURLはランキング下位に位置するという状況になっていた。
 会長室長が経緯を説明する。
 「こんな状況では、とてもじゃないが広報活動はできない。わが社のSEなどのアドバイスから、Googleに対して検索結果からの削除をお願いすればいいのではないかという話になった」
 W社の説明によると、依頼に対して当初、Google日本法人から「所定の申請書に記入して送り返してほしい」とメールで返信があった。フォームに対象の検索言語▽対象の検索キーワード▽誹謗中傷にあたると思われる箇所▽その詳しい具体的内容▽氏名・住所・メールアドレス――などを書き込み、送り返したという。しばらくして日本法人と見られる担当者から返信があり、「日本法人では判定できないため、米国の本社に改めて申請書を送ってほしい」と書かれていた。このため所定の用紙に同じ内容を書き込み、W社側の担当者である広報部長が個人印を押したうえで、Google本社に対してファクスで送信したという。削除依頼を出したのは、悪マニをはじめ約10のウエブページだったという。
 広報部長が証言する。
 「これに対して、返事はなかった。約2週間後、こちらから『悪マニの削除はどうなっているのか』とメールで問い合わせたところ、初めて返答があった。『米国本社で日本の法律を検討した結果、誹謗中傷と名誉毀損に該当すると判断した』と書かれていた。田上部ページへの削除依頼については、こちらから問い合わせをしなかったためもあるだろうが、いっさい連絡は受けていない。削除されたページもあれば、削除されなかったのもある」
 一方、悪マニ側は、W社がこのような要請を出していることはまったく知らなかった。beyond氏が話す。
「12月27日ごろ、突然Googleの検索結果に悪マニが表示されなくなってしまった。月末だったので、最初はGoogle Danceかと思った」
 Google Danceというのは、Googleのインデックス更新時にサーバ群の整合性に時間差が生じ、検索のたびに結果ランキングが変化してしまう現象のことである。beyond氏はGoogleのサポート窓口であるjapanese@google.comに問い合わせのメールを送った。このメールアドレスは、米国本社の日本語サポート担当者に直接送られるようになっており、日本法人にはccもされていない。
 Googleからの返事は「Googleの社内から検索してみたところ、悪マニは検索結果に表示されている。何かの間違いではないか」というものだった。この後、「やはり見えない」「検索オプションはどうなっている?」といったやりとりが数往復、行われた。だが約1週間後、今度はGoogleの別の担当者らしき人物からメールが届き、初めて真相が明らかになる。そのメールには、次のように書いてあった。
 「弊社ではGoogleインデックスに表示されるドメインが、登録されている国の法律に従っていることを確認するよう努めています。弊社では、法律で公認されているコンテンツを削除することおよび情報アクセスの制限を行っておりません。しかしながら、特定のページのコンテンツが日本の法律に違反していると判断された場合、そのページをGoogle.co.jpから削除することがあります。この場合、クレームを頂いたユーザーから詳細情報を記載した署名入り文書を弊社法律部に提出していただく必要があります」
 「このたびご指摘になったページは、日本の法律上、名誉毀損罪(刑法230条)及び営業妨害罪(刑法233条)に該当すると判断され、Google.co.jp及び弊社パートナーサイトから削除させていただきました。何とぞご了承いただきますようお願いいたします」
 しかも削除されたページは、W社関連のトピックだけではなく、悪マニのサイト全体が対象となっていた。
 beyond氏は驚いた。このままではユーザーが悪マニにたどり着くことができなくなってしまうからだ。「訪問販売などで高額商品を買ってしまった人などが、会社名を検索して悪マニにたどり着き、その会社の実態や対策方法を知るというケースは少なくない」(beyond氏)といい、Googleは悪マニへのトラフィックの大きな部分を占めている。
 だがbeyond氏の対応も早かった。悪マニ上で、次のような文章を掲げたのだ。
 「Googleと言う権力を悪用する何者かにより、Googleひいてはインターネットから追い出されてしまいました。このことは、悪徳商法に関する情報を共有することを至上命題としている当サイトとしては、黙認できる状況ではありません。かといって、すでにGoogleに死刑宣告を受けた身でできることは限られています。そこで、サポーターを募集したいと思います」
 悪マニや、悪マニ内に作っていた「W社の情報を募集しています」というページへのリンクを広範囲に呼びかけたのである。同時に、beyond氏は再度Googleに対して質問状を送った。①検索できなくなったページが再び検索できるようになる可能性はあるのか②もし可能性があるのなら、どのような手続きを行えばいいのか③どの部分が法律違反と判断されたのか④クレームをつけたユーザーの情報を教えてほしい――などを求めたのである。このメールは複数回、Google側に送信された。だがその後、Googleからの回答はない。
 3月11日現在、事態は進捗していない。掲示板仮に対するW社の民事提訴、ならびに京都府警による捜査は進展しつつあるが、Googleの検索結果から悪マニのURLは削除されたままになっている。

W社 会長室長

 私どもはインターネットのことにはそれほど詳しくなく、このような事態に陥ってほとほと困惑したというのが、正直な感想だ。
 昨年末から現在にかけ、顧問弁護士とも相談してさまざまな対策をとり、対応してきた。その一環としてGoogleへの依頼があったということだ。弊社のシステムを管理しているSEから「こういう実情をGoogleに訴えてみればどうか」と勧められ、われわれの置かれている状況をその通りにお話しした。削除していただいて、良かったと思っている。
 ただ私どもは悪マニに対しては争うつもりもないし、悪意も敵意もない。逆に悪徳商法の対策サイトとして、たいへん評価すべき存在だと受け止めている。それだけに、なぜわが社に対して悪意をもたれ、ここまで攻撃的な態度を取られるのかと困惑するばかりだ。

※掲示板仮や悪マニ上では、W社はすべて実名で書き込まれている。今回の取材に当たっても、W社に対しては実名で報道することを申し入れた。だがW社側から、①ネット掲示板上で悪質な書き込みが続いており、実名が掲載されるとさらに多くの中傷行為が行われる可能性がある②同社社員らに対する二次被害も起こりうる――などを理由に、匿名での掲載を条件にしたインタビューが要請された。今回の記事が「W社」となっているのは、こうした理由による。

悪徳商法?マニアックス管理人 beyond氏

 Googleという企業がここまで大きくなってきた以上、そうした要請に負けるというのはある程度は仕方ないのかも知れないが、もう少し「芯」を持っていただければと思う。
 Googleはこれまで「検索結果には手を加えない」と言ってきただけに、今回の削除はユーザーに対する欺瞞ではないか。
 仮にもしGoogleが「削除もあり得ます」と公にしたとすれば、少しは軽減されるかもしれないが……しかし、それでもすべてが許されるわけではないだろう。Googleは私企業とはいえ、通信会社やマスコミと同じように公共サービス、公企業に近い立場にいる会社ではないかと認識している。Googleは検索エンジン業界の中で、ほぼ独占に近い状態だ。自社がそういう企業であるという自覚をきちんと持ってほしいと思う。


Google日本法人 セールス&オペレーションディレクター 佐藤康夫氏

 サービスの運営に関しては米国本社の管轄になるため、日本法人の守備範囲外になっている。それを前提にお話しすることになるが、まず大前提としておきたいのは、Googleはあくまでユーザーにとって正しい検索結果を提供するのが最大の目的であるということ。このためSEOスパム行為のように、ユーザーに誤った検索結果を見せてしまうような行為は厳しく排除している。それと同様、ユーザーに悪い影響を与えたり、犯罪につながったり、あるいは法違反になるようなものについても削除する場合がある。削除については本来、その対象サイトの運営者と話し合っていただくのが第一義だが、それではらちがあかないということで今回は連絡をいただき、米国本社で日本人の法務担当が日本人弁護士と相談しながら削除を行った。基準に関してはあくまでケースバイケースということになると思う。
 ただ今回のケースについては、かなり微妙な問題もある。本社とも相談し、議論を続けていかなければならないと思っている。

 筆者は、Google日本法人の広報を通じて米国本社に取材を申し入れ、①どのような判断基準で削除を行っているのか②削除しているという事実をこれまで公にしていなかった理由③削除対象サイトや削除依頼者に対して、積極的な報告を行わなかった理由――など7項目の質問書を送った。だがこれに対し、Google日本法人広報担当の斉藤香氏は、次のようにコメントした。
 「取材依頼を含め、今回の件に関しては、Google内で法務を含めて話し合いが続いています。だが誠に残念ながら、現時点ではこれ以上のコメントを申し上げることは難しく感じております」

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